★ショートストーリー.社内裁判vol5★

前回までのあらすじ

 

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美子さん「あれは二週間前、マイハズバンドと記念日のディナーをした帰り道でした。料理美味しかったねという話をしていたら、君が作る料理と同じぐらい美味しかった、なんて彼が言うものですから、ついつい嬉しくなって『これからもよろしくね』という気持ちを込めて彼の腕に自分の手を絡ませました。

普段は恥ずかしくて、外で腕を組んだりなんてしないんですのよ。うふふ。

 

え、関係ない内容は控えろと?まぁ、せっかちでいらっしゃるのね。もちろん関係あるからお話ししたのでしてよ。

 

その日私がハズバンドと腕を組んだのは、記念日による気持ちの高ぶりだけが原因ではありませんでしたの。

すぐ前を、といっても6,7メートルは先にいたかしら、同じように腕を組んで歩いている男女がおりましたから、まぁいいかと思いまして。

 

まぁその男女が若いカップルだったら私もそんな気持ちになりませんでしたでしょう。

でも、おじさんとおばさ・・・コホン、妙齢の男女のカップルでしたから、あの二人が堂々と腕を組んで歩けるなら、私たちだって大丈夫だわとそんな気持ちになりましたのよ」

 

なぎ「なるほどなるほど、そしてそのカップルがまさに課長と栄子さんだったということですね?」

 

美子さん「まぁ、なぎさちゃんたら本当にせっかちなのね。女は『焦らし』が使いこなせないといい男を釣れないのよ。でも、その通りよ。まさにその二人がそこにいるお二人だったという訳」

 

なぎ「なぜ課長と栄子さんだと分かったのでしょう」

 

美子さん「最初は、栄子さんが持っている鞄に見覚えがありましたの。私は同じブランドの最新作を持っているから、栄子さんが同じシリーズの3シーズンも古い鞄を使っているのが記憶に残っていたのね。

鞄に気が付くと歩き方や背格好ですぐに栄子さんだと分かりましたわ。隣にいるのが課長さんというのもそれで分かったの。二人が仲良しなのは有名だったから。

でも私は健全な仲良さだと信じていたし、男女の垣根を超えて仕事を通じて育まれた友情は男女雇用機会均等の象徴ともいうべきものだと感じていたから、すぐには不倫だと断定したくありませんでしたの。

 

そこでハズバンドにもお願いして二人を少し尾行したところ、腕を組んだままぼろいアパートの階段を登っていったから、あぁ結局そうなのか、と幻滅したわ」

 

なぎ「ありがとうございます、よく分かりました。翌日から会社で二人にどう接したらいいか迷いませんでしたか?」

 

美子さん「迷うことなく、もうお二人と喋りたくないと思いましたわ。不倫などと汚らわしい行為に嵌まり込んだ彼らと関係を持ちたくありませんの」

 

なぎ「そう思われるのもごもっともです。しかし同じ部署に所属していながら、二人と話さないというのは業務に支障が出ませんか?」

 

美子さん「もちろん、支障が出ます。だからこそ課長と栄子さんには異動頂くしかないと思っております。これは私だけでなく、多くの社員が思っていることでしてよ」

 

なぎ「そうでしょうね。不倫が発覚した翌日、課長と栄子さんに話しかける社員がほとんどいなかったことからその事実が伺えました。

課長と栄子さんの不倫が部内に悪影響を及ぼし、業務遂行に支障をきたしていることがよく分かりました。美子さん、改めてありがとうございました。

以上で私からの尋問を終えます。」

 

先輩「弁護人、証人尋問を行いますか?」

 

副部長「えぇ、行います。

美子さん、あなたは何故不倫に対し汚いという感情を抱いてしまうのでしょうか?」

 

美子さん「感情の問題ですから、理論では説明できませんわ。あなたは不倫に対してマイナスのイメージを抱かなくて?」

 

副部長「えぇ、私は不倫に対して特にマイナスのイメージは抱かないのですよ。むしろ『自由な愛・真実の愛』というドラマチックな印象を持つぐらいでしてね。美子さん、あなたが不倫に対して抱くマイナスイメージの根源を教えて差し上げましょう。

それはずばり、『嫉妬』ですね」

 

美子さん「まぁ!私が不倫に嫉妬するですって?!失礼も甚だしいですわ!!」

 

美子さんの甲高い声が会議室を貫きます。

 

なぎ「異議あり!今の発言は証人への冒涜と受け取れます!」

 

部長「異議を認める。弁護人は先ほどの発言を取り消すように」

 

副部長「これはこれは、失礼いたしました。それでは一般論のお話をしましょう。人々は何故不倫に悪感情を抱くか。

 

それは羨ましいからですよ。妬んでいるんですよ。

 

結婚していたって新しい出会いは魅力的です。男はいつだって魅力のある女の尻を追いかけるし、女はいつだって魅力的な男に言い寄られたい。なのに結婚という制約に拘束されてできない。そんな状況で制約を破って恋愛を愉しむ人が居たらどうですか?羨ましいでしょう?あいつだけずるい、と思うでしょう?

 

いいんですよ、思ったって。それが人間の自然な感情ですから。

問題はその嫉妬心を相手への批判にすり替えることです。

 

僕が言いたいのは、不倫を批判するのは正義感があるからじゃない、嫉妬しているからだ、ということです。

 

どうです、美子さん。それでもやはり課長と栄子さんを批判しますか?」

 

美子さんは真っ赤になってぶるぶる震えていました。

 

副部長「以上で、私からの尋問を終わります」

 

余裕の微笑みとともに副部長は弁護人席へ戻ります。退席を促された美子さんはヒールの音をカッツカッツ響かせながら退室していきました。

 

先輩「他に申請を受けている証人はおりませんので、これから30分の休憩を挟み、判決へ移りたいと思います」

 

いよいよ、社内不倫へ部長のジャッジが下されます。

TO BE CONTINUED…

Judges