★ショートストーリー.チェリーボーイの寿命vol.5★

前話はこちら 

 ★★★★★★★★★

「おはよう!なぎさ!!!」

「おはよう!あら、シャレオツなタイピンしてるね〜」

「だろ?これ、気に入ってんだよ。ところでさ、たまには2人で飲みに行かない?」

「いいね、飲み行こう〜★」

 

かくして同期の2人には積もる話もあり、あっという間に会計の時間を迎えたのだった。

 

「今日はご馳走さま」

「あぁ、たまにはいいんだよ。

ところでさ…なぎさ、彼氏とかっているの?」

「いないよ〜」

酔いに任せて童貞が告白の意を決した、その時。

 

バリバリバリバリ!!

 

突然の落雷が辺りを明るく照らした。

「いや!突然すぎるだろう!」

とにかく童貞はなぎさの手を引いて近くの軒先に避難した。

雷と並行して大雨と強風が2人を襲う。

 

キキキキキキキー!

 

耳をつんざく嫌な音。車がスリップしたらしい。

そして分厚い雨のカーテンから2人の目の前に現れた大きな影。

「トラック…!」

スリップしたトラック車体は2人の目前まで迫っていた。

 

「うわっ!なんだ、眩しい!!」

突然、童貞の胸元から爆発的な光が飛び出した。

閃光に目が眩みしばらく状況が分からなくなった2人だが、一向にトラックの衝撃がない。

目が慣れてきた頃には、雷も雨も止んでいた。

 

トラックが倒れているはずの道路には、華奢な身体が倒れていた。

「幸子!!!」

 

童貞は慌てて駆け寄り抱きかかえた。

一見、怪我はしていない。かといって身体は冷たい。

いや、人間ではないからそもそも体温がないのかも知れない。

 

「え、どしたん、大丈夫?知り合い?!」

「あ、あぁ…。ごめん、今日はこのまま急いで帰るよ。またな」

童貞はタクシーを呼び止めると慌ただしく乗り込んだ。

ずぶ濡れのなぎさは1人タクシーを見送るのだった。

 

「幸子!大丈夫か?!」

ベットに寝かせて30分ほど経った頃、幸子がゆっくり目を開けた。

「ううん…身体がイタイ」

「お前、まさかトラックから俺たちを…」

「ほんと、ネクタイピン渡しといてよかった。それはあたしの分身というか飛び道具というか。念のためと思って渡しておいたのよ」

「念のためって…こういう出来事を予想してたのか?」

「してたよ!悪い虫を付けないために来たって言ったじゃない!あなたの魂は何百年に一度の尊いものなのよ」

「まさかあんなことまで…。30歳を迎える前に殺したら意味ないんだろう?」

「確かに30歳を迎えることであなたの魂価値は格が上がるわ。だけど私があなたの寝屋に転がり込んだ今、サキュバスに取られるぐらいなら現時点の魂を刈り取ろうとする輩が出てくるのも当然なのよ」

「それから、俺が童貞を喪失するのも困るってことだな。幸子、お前も含めて」

「…ええ、そうよ」

「あそこでトラックがなくても、俺がなぎさとベッドインしようとしたらお前もネクタイピンから邪魔したってことだな?」

「…そうよ」

「ふさけんな!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」

童貞は珍しく声を荒げた。

 

「じゃあ言わせてもらうけど、あなたさっきの女性のことは好きなの?自分の童貞を捧げるに相応しい相手だと思って?」

「ま、まぁ、なぎさは心置きなく接することができる相手というか…」

「友達とどう違うのかしら?」

「恋人は友人の延長線上というか…」

「捨てたいからという理由だけで今まで守ってきた童貞を投げ打ってしまっていいの?いいえ、あなたが捨てるのは童貞だけじゃない。信念を捨てることになるのよ。『身体を重ねるのはこれぞと思った相手だけ』現代の緩い貞操観念にも流されず貫いてきたその信念、それこそ童貞が尊いとされる所以なのよ」

 

童貞は座った膝の上で拳を握りしめた。

「この人こそと、思った相手…」

 

「そうよ、よく考えて。確かにこのままだとあなたは25日、30歳の誕生日で私に魂を持っていかれてしまう。だからって清純なるその魂を捨ててしまっては、誰のためにもならない。あなたにとってもね」

 

「…色々納得できないこと、腹立たしいことはあるけど、今日は助けてくれて本当にありがとう」

童貞は幸子に頭を下げた。

その頭をくしゃくしゃと撫でて幸子は言った。

「そういう素直なところが好きなのよ」

TO BE CONTINUED…

 

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