[直木賞候補]『稚児桜』澤田瞳子

こんにちは、なぎさです。

本日ご紹介するのは澤田瞳子さん著作『能楽ものがたり 稚児桜』です。

タイトルにもなっている『稚児桜』含む、8篇の短編集です。

2020年上期直木賞の候補作です。

元ネタの能曲目

本作は能の曲目からインスパイアされて書かれた物語集です。

各短編で元ネタになった能曲目は以下の通り。

短編タイトル元ネタ能曲目
「やま巡り」「山姥(やまんば)」
「子狐の剣」「小鍛冶(こかじ)」
「稚児桜(ちごさくら)」「花月(かげつ)」
「鮎」「国栖(くず)」
「猟師とその妻」「善知鳥(うとう)」
「大臣の娘」「雲雀山(ひばりやま)」
「秋の扇」「班女(はんじょ)」
「照日の鏡」「葵上(あおいのうゑ)」

以下に元ネタになった曲目の超ざっくばらんなあらすじを書いていきます。

山姥

山姥の舞曲で人気がある京の遊女。

遊女はお寺へのお参りのため旅に出る。

道中、宿が見つからない中日が暮れてしまい困っていると、老婆が現れ「泊めてあげよう」と提案する。

ありがたく提案に甘える遊女一行。

遊女を家に招いた老婆は「山姥の舞」を見たいとねだる。

遊女たちが舞を始めると「やっぱり月が昇るまで待ってくれ」と言い家を出る老婆。

夜半、遊女たちが改めて舞を始めると山姥の姿になった老女が戻ってきて踊り狂う

小鍛治

ある日鍛冶屋の元に勅使(天皇からの遣い)が訪ねてくる。

曰く、「天皇が夢を見た。あなたに刀を作らせる夢だった。これはお告げに違いないので刀制作よろしく」とのこと。

良い刀をつくるにはいいパートナーが必要だが、その時の鍛冶屋には適任のパートナーがいなかった。

「今の状況では天皇に献上できるほどの刀をお造りできない」と断るものの「勅令だぞ。絶対作れ」と言い残し勅使は帰ってしまう。

困り果てた鍛冶屋は近所のお稲荷さんで「助けてくれ~」と祈る。

すると一人の青年が現われて刀造りのパートナーを申し出た。これがすごく腕がいい。

無事に天皇へ献上する刀を造りあげ、青年は狐の姿に戻り帰って行ったとさ。

花月

ある男の7歳になる息子が失踪した。

男は悲しみ世をはかなんで流浪の僧になる。

そうして今日の都は清水寺へ辿り着く。

寺の者に「素敵な舞が見たいなぁ」とこぼしたところ、「おもしろい舞を踊る稚児がいる」と、花月(かげつ)という少年を紹介される。

さっそく花月の舞を見て楽しむ男。

しかしそのうち気が付いた。

これは我が息子ではないか!

父親と息子は手を取り合って再会を喜び、一緒に郷里へ帰ったとさ。

国栖

ある高名な貴族が都を追われて山中に逃げ落ちた。

貴族の一行は山中の集落に助けを求める。

集落の老夫婦は貴族の訪問に驚きつつも逃亡に手を貸す。

寝床を用意し、飯を作った。

飯は国栖魚(鮎)の焼き物だった。

貴族は出された魚の片側だけを食べ、老夫婦に返した。

食べかけの魚を川に放ったところ鮎が生き返り踊るように川を下って行った。

「これは幸先良い暗示に違いない」と喜ぶ貴族一行。

しかしとうとう追手が集落にやってきた。

老夫婦は「知らぬ存ぜぬ」で貴族の存在を隠し通した。

そのおかげで貴族一行は生き延びることができた。

この貴族こそ天武天皇その人である。

※この曲目は壬申の乱が元ネタになっている

※「国栖」とは吉野地方の先住民族の呼び名

善知鳥

ある僧は山深くで世捨て人と出会う。

その男は元猟師で、家族を残し家を出てきたという。

僧にお願いがあるという男。

その願いとは「家族に俺が死んだと伝えてくれ」というものだった。

僧はその願いを叶えるため、男の形見を持って東北を訪れる。

男の家に着き家族に事情を伝え、手を合わせていると、男の霊が現れる。

曰く、「生きるためとは言え、俺は生前に殺生をし過ぎた。そのせいで生き物たちの霊に苦しめられているんだ」

苦しそうな表情で消えていく男の霊であった。

※善知鳥というのは鳥の名前。「ウトウ」と鳴くらしい。男は善知鳥をたくさん狩っていた。

雲雀山

ある姫がお家騒動に巻き込まれ、父親に殺されそうになった。

父親は根も葉もない噂に踊らされ、実の娘を暗殺しようとしたのだ。

お姫様は父親の家来に山中に連れていかれ殺される予定だったが、その家来は「とても殺せない」と山中に姫を置き去りにする。

姫は一緒に置き去りにされた乳母の働きにより、山中で生き延びる。

ある日乳母が町で花を売っていると、姫の父親にばったり出くわす。

なぜこんなところで花を売っているのか尋ねる父親と今の境遇を話す乳母。

姫が生きていることを知った父親は噂を信じてしまったことを後悔していると伝え、娘に会いたいと切望する。

最初は父親の気持ちを疑っていた乳母だが、最終的には姫の元に父親を連れていく。

姫と父親は再会を喜び合い、元のお屋敷に帰ったとさ。

班女

ある遊女がいました。そこにある少佐が遊びに来ました。

恋に落ちた二人はお互いの扇を交換し、将来を約束しました。

その日以降、遊女は他の客を取らなくなりました。

怒った主人は遊女を追い出します。

遊女が追い出された後、少佐は遊女宿を訪れるのですが、すでに恋に落ちた遊女はおらず、落胆して京に帰ります。

遊女の方も少佐に恋い焦がれたまま、京にたどり着きます。

叶えられなかった約束を嘆いて下賀茂神社に通うようになります。

奇しくも少佐も参拝で下賀茂神社を訪れます。

扇を確認した二人は恋人との再会を喜ぶのでした。

※「班女」とは中国の妃の名前。班女は帝に寵愛を受けていたが他の女に帝を奪われてしまう。そのことから班女は自分のことを秋には捨てられる扇に例えた。この故事から、扇ばかり見て過ごす遊女に「班女」というあだ名がつけられたという設定。

葵上

光源氏の正妻、葵上は怨霊に憑りつかれて重体だった。

そこで照日の巫女を呼んで怨霊を征伐してもらうことに。

怨霊と戦ううちに、その正体は光源氏の愛人だと判明。

正妻の葵上に嫉妬した愛人が怨霊となって憑りついてしまったのだ。

懸命なお祓いのお陰で、愛人の霊は成仏する。

これらの曲目がどんな風に短編物語へ変貌しているか、それは本書を読んでのお楽しみです。

元ネタの曲目を知らなくても楽しめますから、大丈夫ですよ。

本書の感想は動画で語りましたのでよかったら観てください↓↓

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ほんなら読んでくれてありがと~!

ほんじゃあね!